木の肌を生かした自然志向のシンプルなデザイン。
高山城主であり、茶道宗和流の開祖でもあった金森重近の命によって生まれた春慶塗。槙のへぎ目の美しさを損なわないよう、塗り上げられたのがそもそもの始まりといわれるほどですから、「木地つくり」をそのまま生かす透明な漆を使う塗りの行程が大きな特色となっています。
まず、完成した木地に磨きをかけ、塗りムラを防ぐために目止めをします。黄あるいは紅で色付けしてから、下地として、大豆のつぶした「豆汁(ごじる)」を2〜3回塗ります。漆に荏胡麻の油を混ぜたものを木地に摺り込みます。これが「摺(すり)漆」です。さらに生漆を数回摺り込み、十分乾いたところで、透漆(すきうるし)を上塗りし完成です。
現在では、目止めや下地にウレタン樹脂塗料を使った技法も開発されています。ウレタン樹脂は耐水性にすぐれているため、水を使う食器等の丈夫さに貢献しています。
当初は茶器が主流でしたが、天領時代になると家具や食器などの高級品が作られるようになりました。以後、家内工業として発達し、質・生産量ともに向上。江戸末期から明治にかけて、重箱などの角物や、茶道の水指・水注などの曲げ物が作られ、線と円で立体的な美しさを表現する作品が次々と生まれました。
県外への販売も盛んになり、職人の数も増え、問屋が産地の中心となって販路を広げ発展していきました。
素材の良さを最大限に生かすため、デザインはいたってシンプル。それでいて、軽やかな風合いと気品の高さを漂わせています。現在も、「軽い」「色が美しい」「木の肌が自然志向の感覚にフィットする」と、再び注目を集めています。
光を当てると漆を通して木目が黄金色を放ち、大切に使い込むほどに、その光沢がますます増していく。これが、時代を超えて人々に愛される春慶塗の輝きなのでしょう。
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